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今回の地震では当初、神戸と洲本の震度が6と発表された。震度6といえばもちろん大地震であり、相当な被害が予想されることはいうまでもない。しかし、最近の地震では震度6が発表されることがけっして少なくなく、この2年間に釧路沖地震(釧路市震度6)、北海道東方沖地震(釧路市震度6)、三陸はるか沖地震(八戸市震度6)と、震度6の地震が連続していた。これらの地震ではたしかに被害は小さくなかったものの、今回の地震のように壊減的な被害には至らなかった。そこで多くの防災関係者は、震度6という情報を聞いたとき、最近の地震の経験から、神戸市や洲本市の被害状況を釧路沖地震の釧路市や三陸はるか沖地震の八戸市とほぼ同じ程度だろう、と誤って推測してしまったのではないだろうか。つまり「震度6憤れの心理」であり、これが、今回の震災で防災機関や報道機関の初動体制の遅れにつながった一つの原因になったと思われる。
地震の3日後、気象庁は被災地域の一部の震度を7と発表したが、実は、これまでの体制で速報される震度は6が上限であり、震度7は後日の調査を経て発表されるから、どんなに強い地震でも速報値は震度6としか発表されないのである。もし地震の前に震度7が速報震度として発表さていたら、あるいは防災機関などの対応は変わっていたかもしれない。そこで今回の震災をきっかけに、気象庁では震度計で震度7を計測できるようにあらため、しかもこれを速報することにした。
また、いままでも気象台の内部資料では震度は小数点第二位までわかる仕組みになっており、たとえば震度5.50から6.49までを震度6として公表していたが、これをもっと細分化して、4.50から4.99までを「震度5弱」、5.OOから5.49までを「震度5強」、5.50から5.99までを「震度6弱」、6.00から6.49までを「震度6強」として発表することになり、適当な周知期間を設けて、1996年秋にも実現することになった。なお、同時に、震度の解説表も時代の趨勢を踏まえて改訂したり、計測震度計を増設してきめの細かい発表をすることになった(表3)。
震度の細分化・精緻化と並んで、もう一つ重要なことがある。それは、震源・マグニチュード・震度などの情報から、その地震の被害状況を迅速に推測するシステムの開発ということである。すでにJR東海では、地震発生時にその地震の規模を推測して新幹線を緊急停止させる「ユレダス・システム」を整備しているし、東京ガスでも300ヶ所以上の地点に震度計を設置したり、20ヶ所に地盤液状化センサーを設置したりして、各地の震度や、液状化の分布、ガス管などの被害状況を推定する「シグナル」というシステムを稼働させている。また川崎市でも、7つの区役所に地震計を設置して震源とマグニチュードを推測し、また市内を500メートルメッシュに区分して震度や被害を推定するシステムを1994年4月から稼働させている。東京消防庁でも94年12月、JR総研や東京ガスなどから地震計の情報をオンラインで入手し、管内を50メートルメッシュに分けて、各地の震度や火災、人的被害などを推測するシステムを実用化した(以上、朝日新聞1995年7月26日付け記事より)。

 

 

 

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